グリム兄弟(Bruder Grimm)

赤ずきんちゃん - ROTKAPPCHEN

 むかし、むかし、あるところに、ちいちゃいかわいい女の子がありました。それはたれだって、ちょいとみただけで、かわいくなるこの子でしたが、でも、たれよりもかれよりも、この子のおばあさんほど、この子をかわいがっているものはなく、この子をみると、なにもかもやりたくてやりたくて、いったいなにをやっていいのかわからなくなるくらいでした。それで、あるとき、おばあさんは、赤いびろうどで、この子にずきんをこしらえてやりました。すると、それがまたこの子によく似あうので、もうほかのものは、なんにもかぶらないと、きめてしまいました。そこで、この子は、赤ずきんちゃん、赤ずきんちゃん、とばかり、よばれるようになりました。
 ある日、おかあさんは、この子をよんでいいました。
「さあ、ちょいといらっしゃい、赤ずきんちゃん、ここにお菓子かしがひとつと、ぶどう酒しゅがひとびんあります。これを赤ずきんちゃん、おばあさんのところへもっていらっしゃい。おばあさんは、ご病気でよわっていらっしゃるが、これをあげると、きっと元気になるでしょう。それでは、あつくならないうちにおでかけなさい。それから、そとへでたら気をつけて、おぎょうぎよくしてね、やたらに、しらない横道へかけだしていったりなんかしないのですよ。そんなことをして、ころびでもしたら、せっかくのびんはこわれるし、おばあさんにあげるものがなくなるからね。それから、おばあさんのおへやにはいったら、まず、おはようございます、をいうのをわすれずにね。はいると、いきなり、おへやの中をきょろきょろみまわしたりなんかしないでね。」
「そんなこと、あたし、ちゃんとよくしてみせてよ。」と、赤ずきんちゃんは、おかあさんにそういって、指きりしました。
 ところで、おばあさんのおうちは、村から半道はなれた森の中にありました。赤ずきんちゃんが森にはいりかけますと、おおかみがひょっこりでてきました。でも、赤ずきんちゃんは、おおかみって、どんなわるいけだものだかしりませんでしたから、べつだん、こわいともおもいませんでした。
「赤ずきんちゃん、こんちは。」と、おおかみはいいました。
「ありがとう、おおかみちゃん。」
「たいそうはやくから、どちらへ。」
「おばあちゃんのところへいくのよ。」
「前かけの下にもってるものは、なあに。」
「お菓子に、ぶどう酒。おばあさん、ご病気でよわっているでしょう。それでおみまいにもってってあげようとおもって、きのう、おうちで焼いたの。これでおばあさん、しっかりなさるわ。」
「おばあさんのおうちはどこさ、赤ずきんちゃん。」
「これからまた、八、九町ちょうもあるいてね、森のおくのおくで、大きなかしの木が、三ぼん立っている下のおうちよ。おうちのまわりに、くるみの生垣いけがきがあるから、すぐわかるわ。」
 赤ずきんちゃんは、こうおしえました。
 おおかみは、心の中でかんがえていました。
「わかい、やわらかそうな小むすめ、こいつはあぶらがのって、おいしそうだ。ばあさまよりは、ずっとあじがよかろう。ついでにりょうほういっしょに、ぱっくりやるくふうがかんじんだ。」
 そこで、おおかみは、しばらくのあいだ、赤ずきんちゃんとならんであるきながら、道みちこう話しました。
「赤ずきんちゃん、まあ、そこらじゅうきれいに咲いている花をごらん。なんだって、ほうぼうながめてみないんだろうな。ほら、小鳥が、あんなにいい声で歌をうたっているのに、赤ずきんちゃん、なんだかまるできいていないようだなあ。学校へいくときのように、むやみと、せっせこ、せっせこと、あるいているんだなあ。そとは、森の中がこんなにあかるくてたのしいのに。」
 そういわれて、赤ずきんちゃんは、あおむいてみました。すると、お日さまの光が、木と木の茂った中からもれて、これが、そこでもここでも、たのしそうにダンスしていて、どの木にもどの木にも、きれいな花がいっぱい咲いているのが、目にはいりました。そこで、
「あたし、おばあさまに、げんきでいきおいのいいお花をさがして、花たばをこしらえて、もってってあげようや。するとおばあさん、きっとおよろこびになるわ。まだ朝はやいから、だいじょうぶ、時間までに行かれるでしょう。」
と、こうおもって、ついと横道から、その中へかけだしてはいって、森の中のいろいろの花をさがしました。そうして、ひとつ花をつむと、その先に、もっときれいなのがあるんじゃないか、という気がして、そのほうへかけて行きました。そうして、だんだん森のおくへおくへと、さそわれて行きました。
 ところが、このあいだに、すきをねらって、おおかみは、すたこらすたこら、おばあさんのおうちへかけていきました。そして、とんとん、戸をたたきました。
「おや、どなた。」
「赤ずきんちゃんよ。お菓子とぶどう酒を、おみまいにもって来たのよ。あけてちょうだい。」
「とっ手をおしておくれ。おばあさんはご病気でよわっていて、おきられないのだよ。」
 おおかみは、とっ手をおしました。戸は、ぼんとあきました。おおかみはすぐとはいっていって、なんにもいわずに、いきなりおばあさんのねているところへ行って、あんぐりひと口に、おばあさんをのみこみました。それから、おばあさんの着物を着て、おばあさんのずきんをかぶって、おばあさんのお床とこにごろりと寝て、カーテンを引いておきました。

 赤ずきんちゃんは、でも、お花をあつめるのにむちゅうで、森じゅうかけまわっていました。そうして、もうあつめるだけあつめて、このうえ持ちきれないほどになったとき、おばあさんのことをおもいだして、またいつもの道にもどりました。おばあさんのうちへ来てみると、戸があいたままになっているので、へんだとおもいながら、中へはいりました。すると、なにかが、いつもとかわってみえたので、
「へんだわ、どうしたのでしょう。きょうはなんだか胸がわくわくして、きみのわるいこと。おばあさんのところへくれば、いつだってたのしいのに。」と、おもいながら、大きな声で、
「おはようございます。」
と、よんでみました。でも、おへんじはありませんでした。
 そこで、お床とこのところへいって、カーテンをあけてみました。すると、そこにおばあさんは、横になっていましたが、ずきんをすっぽり目までさげて、なんだかいつもとようすがかわっていました。
「あら、おばあさん、なんて大きなお耳。」
「おまえの声が、よくきこえるようにさ。」
「あら、おばあさん、なんて大きなおめめ。」
「おまえのいるのが、よくみえるようにさ。」
「あら、おばあさん、なんて大きなおてて。」
「おまえが、よくつかめるようにさ。」
「でも、おばあさん、まあ、なんてきみのわるい大きなお口だこと。」
「おまえをたべるにいいようにさ。」
 こういうがはやいか、おおかみは、いきなり寝床からとびだして、かわいそうに、赤ずきんちゃんを、ただひと口に、あんぐりやってしまいました。

 これで、したたかおなかをふくらませると、おおかみはまた寝床にもぐって、ながながと寝そべって休みました。やがて、ものすごい音を立てて、いびきをかきだしました。
 ちょうどそのとき、かりうどがおもてを通りかかって、はてなと思って立ちどまりました。
「ばあさんが、すごいいびきで寝ているが、へんだな。どれ、なにかかわったことがあるんじゃないか、みてやらずばなるまい。」
 そこで、中へはいってみて、寝床のところへ行ってみますと、おおかみが横になっていました。
「ちきしょう、このばちあたりめが、とうとうみつけたぞ。ながいあいだ、きさまをさがしていたんだ。」
 そこで、かりうどは、すぐと鉄砲をむけました。とたんに、ふと、ことによると、おおかみのやつ、おばあさんをそのままのんでいるのかもしれないし、まだなかで、たすかっているのかもしれないぞ、とおもいつきました。そこで鉄砲をうつことはやめにして、そのかわり、はさみをだして、ねむっているおおかみのおなかを、じょきじょき切りはじめました。
 ふたはさみいれると、もう赤いずきんがちらと見えました。もうふたはさみいれると、女の子がとびだしてきて、
「まあ、あたし、どんなにびっくりしたでしょう。おおかみのおなかの中の、それはくらいったらなかったわ。」と、いいました。
 やがて、おばあさんも、まだ生きていて、はいだしてきました。もう、よわって虫の息になっていました。赤ずきんちゃんは、でも、さっそく、大きなごろた石を、えんやらえんやらはこんできて、おおかみのおなかのなかにいっぱい、つめました。やがて目がさめて、おおかみがとびだそうとしますと、石のおもみでへたばりました。
 さあ、三人は大よろこびです。かりうどは、おおかみの毛皮をはいで、うちへもってかえりました。おばあさんは、赤ずきんちゃんのもってきたお菓子をたべて、ぶどう酒をのみました。それで、すっかりげんきをとりかえしました。でも、赤ずきんちゃんは、(もうもう、二どと、森の中で横道にはいって、かけまわったりなんかやめましょう。おかあさんがいけないと、おっしゃったのですものね。)と、かんがえました。

ブレーメンの町楽隊 - DIE BREMER STADTMUSIKANTEN

 主人もちのろばがありました。もうなが年、こんきよく、おもたい袋をせなかにのせて、粉ひき所じょへかよっていました。さて、年をとって、だんだんからだがいうことをきかなくなり、さすがにこのうえ追いつかうのがむりだとわかると、主人は、ここらでろばのかいぶちをやめたものか、と考えだしました。ところで、ろばは、さっそくに、こりゃ、ろくなことではないとさとって、逃にげだして、ブレーメンの町をめあてに、とことこ出かけました。そこへ行ったら、町の楽隊がくたいにやとってもらえようという胸算用むなざんようでした。
 しばらくあるくうちに、往来おうらいに一ぴき、りょう犬が、だるそうにころがって、口ばかりあけて、はっは、はっは、あえいでいるのに出あいました。それはさんざん野山をかけあるいて、へとへとになっているというようすでした。
「おい、すたこら大将、なにをあっぷ、あっぷいっている。」と、ろばは声をかけました。
「いやはや、きいてくれ、こういうわけだ。」と、犬はいいました。「なにしろ年はとる、いくじがなくなる、おいらもむかしのげんきで猟場りょうばをかけあるくわけにはいかない。主人は、それならいっそ、たたき殺してしまえということになった。あわてて逃げだしたというわけだが、さて、この先どうしてパンにありつくか、じつはかんがえているところだよ。」
「ところで話だが、おいら、これからブレーメンの町へ出かけて、町の楽隊にやとってもらおうとおもうんだ、どうだ、おめえ、いっしょに行って、いちばん、音楽でめしをくう気はないか。おいらリュウトをひくから、おめえ、カンカラ太鼓だいこをたたくがいい。」
 りょう犬は、うん、よかろうというので、いっしょに出かけました。
 それからあまり行かないうちに、ねこが一ぴき、往来にすわりこんだまま、それこそ三日も雨をくったような顔をしていました。
「やあ、どうしたい、床屋とこやの親方、どうやらおひげの手入どころではないという顔つきだが。」と、ろばはいいました。
「いのちとかえがけというところだ。けいきのいい顔をしてもいられまい。なにしろ年をとって来てね、歯はばくばくになる、ねずみのやつをおいまわすよりか、ろばたで香箱こばこつくって、ごろにゃん、ごろにゃん、のどをならしていたくなるさ。そこで、主人のかみさんが、いっそ水にはめておしまいよといいだした。そうされないうちに、とびだしては来たが、さていい思案しあんはないしさ、いったいどこへどう行ったものかと、あぐねているのだよ。」と、ねこはいいました。
「おれたちとなかまで、ブレーメンの町へ行けよ。おまえさんは、夜の音楽ならお手のものだろう、町の楽隊につかってもらえるぜ。」と、ろばはいいました。
 ねこは、さっそくさんせいして、いっしょに出かけました。
 やがて、三人組の脱走者だっそうしゃは、とある屋敷やしき内に来かかりました。門の上に、その家のおんどりがのっていて、ありったけの声をふりしぼって、さけび立てていました。
「おい、骨のしんまで、じいんとくるような声を出すなあ。どうかしたのかい。」
と、ろばはいいました。
「なあに、あしたはいいお天気ですよって、知らせてやっているところだよ。」と、おんどりはいいました。
「なにしろ、けっこうなお聖母せいぼさまの日だ、おちいさいキリストさまの下着の、おせんたくして、ほしなすった日だ。ところが、そのあしたの日曜日にちようびに、お客があるというんで、ここのおかみさんが、なさけ知らずにもほどがあらあ、女中の話だがね、それで、あすはおいらをスープにしてたべっちまうってんでね、こん晩、さっそく、首をチョン切れといいつかったとよ。だから、せめて声のだせるうちとおもって、おいら、のどのやぶれるほどわめき立てているんだよ。」
「やれやれ、なんということだい、赤ずきん、おれたちといっしょに行くがいいよ。ブレーメンの町へ出かけるところだ。ころされて死ぬくらいなら、すこしは気のきいた所が、どこへ行ったってあろうじゃないか。おめえはいい声しているから、なかまになって音楽をながしてあるけ、いっぱしかせげるぞ。」と、ろばはいいました。
 この申し出は、しごくおんどりの気に入りました。そこで、こんどは四人つれだって出かけることになりました。

 

 

 

 ところで、ブレーメンまでは、なかなか一日では行けません。そのうち日がくれたので、森の中へはいって、そこでひとばんあかすことにしました。
 まず、ろばと犬とは、一本の木の下にごろりと横になりました。ねことおんどりとは、木の枝の上にやすみました。ところで、おんどりはわざわざこずえの先まで行ってとまりましたが、これが、いちばんの安全な場所であったのです。さてねようとするまえ、このおんどりはもういちど、東西南北、風のふく方角がどこかとながめまわしたとき、ふと、むこうに、ちらちら火らしいものがみえたので、なかまに声をかけて、どうしても、そうとおくないところに家があって、あかりがついているらしいといってしらせました。
 ろばが、そこで、
「じゃあおれたち、ここをひきはらって、もっと先まで行ってみようや。どうもこの宿は上等じょうとうとはいかないから。」と、いいますと、犬もそこへ行ったら、骨の一、二本、ことによると肉の香かおりぐらいかげようかとおもって、さっそくさんせいしました。
 こういうしだいで、四人組は、そのあかりのさしている方角ほうがくにむかって、出かけました。するうち、あかりはずんずんはっきりしてきて、ぱあっとてりだしたとおもうと、そこはどろぼうの家で、中にはこうこうと灯ひがともっていました。
 ろばは、なかまでいちばんのせいたかのっぽなので、窓のところまで行って、中をのぞいてみました。
「親方、なにかあったかね。」と、おんどりはたずねました。
「どうして、あったかどころのさわぎじゃないぞ。」と、ろばはこたえました。「ちゃんとテーブルごしらえがしてあって、けっこうなごちそうと、のみものが、山とならんでいるよ。どろぼうども、てんでに、はちきれそうな顔で、よろしくやってるところさ。」
「そいつをものにしようじゃないか。」と、おんどりはいいました。
「うん、うん、どうしたってわりこまなきゃあな。」と、ろばはいいました。
 そこで、まず、どろぼうどもを追っぱらうには、どうすればいいかと、四人組の動物は、相談そうだんをはじめましたが、やがていいくふうがみつかりました。
 ろばは、前足を窓にのせることになりました。犬は、ろばのせなかにとびあがることにしました。ねこは犬のせなかによじのぼることにしました。おしまいに、おんどりが、ばさばさととびあがって、ねこの頭の上にのっかりました。いよいよしたくができあがると、一、二、三のあいずで、四にん組はいっせいに、音楽をやりだしました。ろばはひひんとわめきました。犬はわんわんほえたてました。ねこはにゃおんとなきました。おんどりはこけこっこうと、ときをつくりました。とたんに、まどをつきやぶって、一同いちどうへやの中へとびこみました、がらん、がらん、がらん、音をたててガラスはこわれました。
 どろぼうどもは、びっくりぎょうてん、きゃあとさけび声をあげてとびあがりました。たいへんな怪物かいぶつがとびこんで来た、そうとよりしか考えません。もうすっかりおびえきって、てんでに、あたまをかかえて、そとの森の中へ、にげだして行きました。
 そこで、四人組は、ゆうゆうテーブルにつきました。ごちそうは、のこりものでも、がまんすることにして、それでも、これからあと四週間ぐらい断食だんじきしてもいいといういきおいで、つめこめるだけ、たらふくつめこみました。

 

 

 

 さて、四人組の楽隊なかまは、おなかができると、あかりをけして、めいめいのうまれつきとすきずきにまかせて、いいぐあいの寝床ねどこをさがして休みました。ろばはそとのつみごえの上にねました。犬は戸のかげにねました。ねこはへっついの上で、灰のぬくみをさがしてねました。おんどりは、とまり木のかわりに、屋根うらのはりの上にのりました。なにしろ、みんな遠道をして来て、くたびれていましたから、もうさっそくに、ぐっすりねつきました。
 真夜中をすぎたときに、どろぼうどもが、とおくからみますと、うちの中にはあかりがともっていず、中はひっそりかんと、しずまりかえっているようでした。
「どうもおれたち、おどかされて、にげだしたといわれちゃあ、がまんできないぞ。」
 おかしらはこういって、ひとり手下てしたにいいつけて、ようすをみせにやりました。
 さて、いいつかった手下がはいってみると、家の中はどこもひっそりしていました。そこであかりをつけてみようとおもって、台所へ行きました。すると、やみに光っているねこの目だまを炭火すみびとまちがえて、いきなりマッチをつっこみました。ところが、ねこのほうは、おやすいご用とうけてはくれず、ううう、とたけりながら、顔にとびついて、めったらやたらに引っかきました。
 いやはや、おどろいたのなんの、手下のどろぼうは、したたかにやられて、びっくり、はいもう、うらの戸口から逃げだそうとしますと、そこにねていた犬が、とびあがって、むこうずねにかみつきました。そこで、庭へかけだして、つみごえのそばをかけぬけようとしますと、ろばがあと足でしたたかに、けとばしました。すると、このさわぎで目をさまさせられためんどりが、はりの上から、はしゃぎきって、ひと声、キケリッキー、とどなりました。
 どろぼうは、いのちからがら、足にまかせてにげだして、おかしらの所へかえりました。そうしてこういいました。
「どうもはや、たいへん、あの家には、すごい魔物まものがはいりこんでいて、いきなり、きみわるく、ふうう、と息をふっかけて、ながい指で顔をひっかきました。それから、戸の前にはひとり、男が待ちぶせていて、小刀をすねにつきたてました。庭へ出ると、なんともえたいの知れない、まっ黒なばけものが立っていて、こんぼうをふっるて、したたかなぐりつけました。その上、たかい所には、ちゃんと裁判官さいばんかんがひかえていまして、さあ、そのわるもの、ここへつれて来い、とどなりました。いやもう、さんざんのていたらくで、まっくらさんぼう逃げて来ました。」
 それからは、どろぼうどもも、こりて、二どとふたたび、この家にはいろうとはしませんでした。ところで、ブレーメンの楽隊なかま四人組も、ひどく、ここが気に入ったので、それなりもうよそへ出て行こうとはしませんでした。
 さて、これまで申したことは、ついこないだ、それこそ湯気ゆげの立つほやほやの口からきいたお話ですよ。

 

かえるの王さま - DER FROSCHKONIG ODER DER EISERNE HEINRICH

 むかしむかし、たれのどんなのぞみでも、おもうようにかなったときのことでございます。
 あるところに、ひとりの王さまがありました。その王さまには、うつくしいおひめさまが、たくさんありました。そのなかでも、いちばん下のおひめさまは、それはそれはうつくしい方で、世の中のことは、なんでも、見て知っていらっしゃるお日さまでさえ、まいにちてらしてみて、そのたんびにびっくりなさるほどでした。
 さて、この王さまのお城のちかくに、こんもりふかくしげった森があって、その森のなかに一本あるふるいぼだいじゅの木の下に、きれいな泉が、こんこんとふきだしていました。あつい夏の日ざかりに、おひめさまは、よくその森へ出かけて行って、泉のそばにこしをおろしてやすみました。そして、たいくつすると、金のまりを出して、それをたかくなげては、手でうけとったりして、それをなによりおもしろいあそびにしていました。
 ある日、おひめさまは、この森にきて、いつものようにすきなまりなげをして、あそんでいるうち、ついまりが手からそれておちて、泉のなかへころころ、ころげこんでしまいました。おひめさまはびっくりして、そのまりのゆくえをながめていましたが、まりは水のなかにしずんだまま、わからなくなってしまいました。泉はとてもふかくて、のぞいてものぞいても、底はみえません。
 おひめさまは、かなしくなって泣きだしました。するうちに、だんだん大きな声になって、おんおん泣きつづけるうち、じぶんでじぶんをどうしていいか、わからなくなってしまいました。
 おひめさまが、そんなふうに泣きかなしんでいますと、どこからか、こうおひめさまによびかける声がしました。
「おひめさま。どうなすったの、おひめさま。そんなに泣くと、石だって、おかわいそうだと泣きますよ。」
 おや、とおもって、おひめさまは、声のするほうをみまわしました。そこに、一ぴきのかえるが、ぶよぶよふくれて、いやらしいあたまを水のなかからつきだして、こちらをみていました。
「ああ、水のなかのぬるぬるぴっちゃりさん、おまえだったの、いま、なにかいったのは。」と、おひめさまは、なみだをふきながらいいました。「あたしの泣いているのはね、金のまりを泉のなかにおとしてしまったからよ。」
「もう泣かないでいらっしゃい。わたしがいいようにしてあげますからね。」
「じゃあ、まりをみつけてくれるっていうの。」
「ええ、みつけてあげましょう。でも、まりをみつけて来てあげたら、なにをおれいにくださいますか。」
「かわいいかえるさん。」と、おひめさまはいいました。「おまえのほしいものなら、なんでもあげてよ。あたしのきているきものでも、光るしんじゅでも、きれいな宝石ほうせきでも、それから金のかんむりでも。」
「いいえ、わたしはそんなものがほしくはないのです。けれど、もしかあなたがわたしをかわいがってくだすって、わたしをいつもおともだちにして、あなたのテーブルのわきにすわらせてくだすって、あなたの金のお皿から、なんでもたべて、あなたのちいさいおさかずきで、お酒をのましていただいて、よるになったら、あなたのかわいらしいお床とこのそばで、ねむってよいとおっしゃるなら、わたしは水のなかから、金のまりをみつけてきてあげましょう。」と、かえるはいいました。
「ええ、いいわ、いいわ。金のまりをとってきてくれさえすれば、おまえのいうとおり、なんでもやくそくしてあげるわ。」と、おひめさまはこたえました。そういいながら、心の中では、(かえるのくせに、にんげんのなかま入りしようなんて、ほんとうにずうずうしい、おばかさんだわ)と、おもっていました。
 かえるは、でも、約束やくそくのとおり、水のなかにもぐって行きました。しばらくすると、ちゃんと金のまりを口にくわえて、ぴょこんとうかび上がってきました。そして、
「さあ、ひろってきましたよ。」
 そういって、草のなかにまりをおきました。ところが、おひめさまは、そのまりをつかむなり、ありがとうともいわず、とんでかえって行きました。
 かえるは大声をあげて、
「まってください、まってください。」といいました。「わたしもいっしょにつれてって。わたしはそんなにかけられない。」
 けれど、かえるが、うしろでいくらぎゃあ、ぎゃあ、大きな声でわめいたって、なんのたしにもなりません。おひめさまは、てんでそんなものは耳にもはいらないのか、とッとッとうちのほうへかけだして行ってしまって、かえるのことなんか、きれいにわすれていました。
 かえるは、しかたがないので、すごすご、もとの泉のなかへもぐって行きました。

 

 

 そのあくる日のことでした。
 おひめさまが、王さまや、のこらずのごけらい衆しゅうといっしょに、食事のテーブルにむかって、金のお皿でごちそうをたべていますと、そとでたれかが、ぴっちゃり、ぴっちゃり、大理石のかいだんを上がってくる音がしました。そして、上まで上がってしまうと、戸をとんとんたたいて、
「王さまのおひめさま、いちばん下のおむすめご、どうぞこの戸をあけてください。」という声がしました。
 おひめさまは立ち上がって行って、たれかしらみようとおもって、戸をあけますと、そこに、きのうのかえるが、ぺっちゃりすわっていました。
 おひめさまは、ぎょっとして、ばたんと戸をしめるなり、知らん顔で席にもどりました。でも心配で心配でたまりません。おひめさまが胸をどきどきさせているのを、王さまはちゃんと見ておいでで、
「ひいさん、なにをびくびくしておいでだい。戸のそとに、大入道おおにゅうどうの鬼が来て、おまえをさらって行こうとでもしているのかい。」とたずねました。
「あら、ちがうの。」と、おひめさまはこたえました。「大入道の鬼なんかじゃないわ。でも、きみのわるいかえるが来て。」
「そのかえるが、おまいにどうしようというのだね。」
「あの、おとうさま、それはこういうわけなのよ。あたし、きのう、いつもの森の泉のところであそんでいましたらね、金もまりが水のなかにころげおちました。それであたしが泣いていると、かえるが出てきて、まりをとってくれましたの。それから、かえるがしつっこくたのむもんだから、じゃあお友だちにしてあげるって、あたしかえるに約束やくそくしてしまいました。まさか、かえるが水のなかから、のこのこやってこようとは、おもわなかったんですもの。それが、あのとおりやって来て、なかへ入れてくれっていうんですもの。」
 そのとき、またろうかの戸をとんとんたたく音がしました。そうして、大きな声でよびました。

いちばん下の おひめさま、
あけてください たのみます。
つめたい泉の わくそばで、
きのう やくそく したことを、
あなたは おぼえて いるでしょう。
いちばん下の おひめさま、
あけてください たのみます。

 すると王さまはいいました。
「それはおまえがいけないね。いちどやくそくしたことは、きっとそのとおりしなければなりません。さあ、はやく行って、あけておやり。」
 おひめさまはしぶしぶ立って、戸をあけました。とたんに、かえるはぴょこんととびこんで来て、それから、おひめさまのあとについて、ひょこひょこ、いすの所までやってきました。
 かえるは、そこにしゃがみこんで、上をみながら、
「わたしも、そのいすに上げてください。」といいました。おひめさまがもじもじしていると、おとうさまがまた、かえるのいうとおりしておやりといいました。
 おひめさまはしかたなく、かえるをいすにのせてやりました。
 するとかえるがまたいいました。
「どうぞ、わたしを、テーブルの上にのせてください。」
 おひめさまが、かえるをテーブルにのせてやると、こんどは、
「さあ、その金のお皿をずっとわたしのほうによせてください。そうするとふたりいっしょにたべられるから。」といいました。
 おひめさまは、かえるのいうとおりしてやりました。ほんとに、かえるが、ぴちゃぴちゃ、さもおいしそうに舌づつみうってたべているそばで、おひめさまは、ひとくちひとくち、のどにつかえるようでした。
 かえるはたべるだけたべると、おなかをまえへつきだして、
「ああ、おなかがはって、ねむくなった。おひめさま、さあ、わたしをあなたのおへやにつれて行ってください。かわいらしい、あなたのきぬのお床とこのなかで、わたしはゆっくりねむりたい。」
 おひめさまは、もうがまんができなくなって、しくしく泣きだしてしまいました。ほんとに、ぬるぬる、ぴちゃぴちゃ、さわるのもきみのわるいかえるが、おひめさまのきれいなお床とこのなかで、ねむりたいなんていうのですもの、おひめさまがかなしくなるのもむりはありません。
 するとまた王さまが、
「泣くことがあるか。たれでも、こまっているとき、たすけてくれたものに、あとで知らん顔するのは、いけないことだよ。」といいました。
 おひめさまは、さもきみわるそうに、指のさきでそっとかえるをつまみあげて、上のおへやまでもって行くと、そっと隅すみっこにおきました。そうして、じぶんだけが、お床にはいってしまいました。
 ところが、かえるは、さっそく、のこのこはいだしてきて、
「ああくたびれた、くたびれた。はやくゆっくりねむりたい。さあ、そこへ上げてください。でないと、おとうさまにいいつけるから。」といいました。
 これでおひめさまは、すっかり腹が立ちました。そこでいきなりかえるをつかみ上げて、ありったけのちからで、したたか、壁かべにたたきつけました。
「さあ、これでたんとらくにねむるがいい。ほんとにいやなかえるったらないよ。」
 ところで、どうでしょう。かえるは、ゆかの上にころげたとたん、もうかえるではなくなって、世にもうつくしいやさしい目をした王子にかわっていました。
 さて、この王子が、おひめさまのおとうさまのおぼしめしで、おひめさまのお友だちでも、おむこさまであることになりました。そのとき、王子はあらためて、じぶんの身の上の話をして、あるわるい魔法まほうつかいの女のためにのろわれて、みにくいかえるの姿にかえられたが、それを泉のなかからたすけだして、もとのにんげんにかえしてくれるものは、この王さまのおひめさまのほかになかったといいました。それで、あしたはもうさっそく、ふたりつれだって、じぶんの国にかえって行くつもりだともいいました。

 

 

 それでふたりはゆっくりやすみました。そして、あくる朝、お日さまがにこにこ、ふたりをお起しになるじぶん、八頭とうだての白馬をつけた馬車が、はいって来ました。どの馬も、あたまに白いだちょうのはねをかぶって、金のくさりをひきずっていました。馬車のうしろには、わかい王さまのごけらいが、しゃんと立っていました。これが忠義もののハインリヒでありました。
 忠義もののハインリヒは、鉄のたがを三本も胸にまきつけていました。それは、ご主君しゅくんがかえるにされてしまったので、かなしくてかなしくて、いまにも胸がはれつしそうになったので、やっとたがをはめて、おさえていたのです。たいせつな王さまが、もとの姿にかえったので、きょうさっそく、八頭だての馬車が、おむかえにきたのです。忠義もののハインリヒは、おふたりを馬車のなかに入れてあげて、じぶんはまた馬車のうしろにしゃんと立ちながら、ご主君のまた世に出たことをおもって、ぞくぞくするほどうれしくてなりませんでした。
 さて馬車がすこしはしりだしたとおもうころ、王さまのお耳のうしろで、ぱちり、ぱちり、なにかはじける音がしました。わかい王さまはそのとき、うしろをふりかえっていいました。

「ハインリヒ、馬車がこわれるぞ。」
「いいえ、いいえ お殿とのさま、
あれは馬車では ござんせぬ。
せっしゃのむねに はめたたが。
殿さま、げえろにならしゃって、
ぎゃあぎゃあ、泉でなかしゃるで、
はりさけそうな このむねを、
むりにおさえた そのたがが。」

 それでも、ぱちり、ぱちり、また二どもはじける音がしました。わかい王さまは、そのたんびに馬車がこわれるのではないかとおもいました。けれども、それはやはり、ご主君がにんげんにかえって、たのしい日をおくられることになったので、ふさがっていたハインリヒのむねが、ひらけたため、胸のたががはれつして、とびちる音でございました。

 

おおかみと七ひきのこどもやぎ - DER WOLF UND DIE SIEBEN JUNGEN GEISSLEIN

 むかし、あるところに、おかあさんのやぎがいました。このおかあさんやぎには、かわいいこどもやぎが七ひきあって、それをかわいがることは、人間のおかあさんが、そのこどもをかわいがるのと、すこしもちがったところはありませんでした。
 ある日、おかあさんやぎは、こどもたちのたべものをとりに森まで出かけて行くので、七ひきのこどもやぎをよんで、こういいきかせました。
「おまえたちにいっておくがね、かあさんが森へ行ってくるあいだ、気をつけてよくおるすばんしてね、けっしておおかみをうちへ入れてはならないよ。あいつは、おまえたちのこらず、まるのまんま、それこそ皮も毛もあまさずたべてしまうのだよ。あのわるものは、わからせまいとして、ときどき、すがたをかえてやってくるけれど、なあに、声はしゃがれて、があがあごえだし、足はまっ黒だし、すぐと見わけはつくのだからね。」
 すると、こどもやぎは、声をそろえて、
「かあさん、だいじょうぶ、あたいたち、よく気をつけて、おるすばんしますから、心配しないで行っておいでなさい。」と、いいました。
 そこで、おかあさんやぎは、メエ、メエといって、安心して出かけて行きました。

 

 

 

 やがて、まもなく、たれか、おもての戸をとんとんたたくものがありました。そうして、
「さあ、こどもたち、あけておくれ、おかあさんだよ。めいめいに、いいおみやげをもって来たのだよ。」と、よびました。
 でも、こどもやぎは、それがしゃがれた、があがあ声なので、すぐおおかみだということがわかりました。そこで、
「あけてやらない。おかあさんじゃないから。おかあさんは、きれいな、いい声してるけれど、おまえはしゃがれっ声ごえのがあがあ声だもの。おまえはおおかみだい。」と、さけびました。
 そこで、おおかみは、荒物屋あらものやの店へ出かけて、大きな白はくぼくを一本買って来て、それをたべて、声をよくしました。それからまたもどってきて、戸をたたいて、大きな声で、
「さあ、こどもたち、あけておくれ。おかあさんだよ、みんなにいいものをもって来たのだよ。」と、どなりました。
 でも、おおかみはまっ黒な前足を、窓のところにかけていたので、こやぎたちはそれをみつけて、
「あけてはやらない。うちのおかあさんは、おまえのようなまっ黒な足をしていない。おまえはおおかみだい。」と、さけびました。
 そこで、おおかみは、パン屋の店へ出かけて、
「けつまづいて足をいためたから、ねり粉をなすっておくれ。」と、いいました。
 で、パン屋が、おおかみの前足にねったこなをなすってやりますと、こんどは、粉屋こなやへかけつけて行って、
「おい、前足に白いこなをふりかけてくれ。」と、いいました。
「おおかみのやつ、まただれかだますつもりだな。」
 そう粉屋はおもって、ぐずぐずしていました。
 するとおおかみは、
「すぐしないと、くっちまうぞ。」と、どなりました。
 そこで、粉屋はこわくなって、おおかみの前足を白くしてやりました。まあ、こういうところが、人間のだめなところですね。
 さて、わるものは、三どめに、やぎのおうちの戸口に立って、とんとん、戸をたたいて、こういいました。
「さあこどもたちや、あけておくれ、おかあさんがかえって来たのだよ、おまえたちめいめいに、森でいいものをみつけて来たのだよ。」
 子やぎたちは、声をそろえて、
「さきに足をおみせ、うちのおかあさんだかどうだか、みてやるから。」
 そういわれて、おおかみは、前足を窓にのせました。こどもやぎがそれを見ますと、白かったので、おおかみのいうことを、すっかりほんとうにして、戸をあけました。
 ところで、はいって来たのはたれでしたろう、おおかみだったではありませんか。
 みんな、わあっとおどろいて、ふるえあがって、てんでんにかくれ場所をさがして、かくれようとしました。ひとりは、つくえの下にとびこみました。次は寝床ねどこにはいこみました。三ばんめは、炉ろの中にかくれました。四ばんめは、台所だいどころへにげました。五ばんめは、棚たなにあがりました。六ばんめは、洗面せんめんだらいの下にもぐりました。七ばんめは、柱時計の箱のなかにかくれました。
 ところが、おおかみは、そばからみつけだして、ぞうさなく、ひとりひとり、かたはしからつかまえて、ただひと口に、あんぐりやってしまいました。ただ、大時計の箱のなかにかくれた、いちばん小さな子だけは、みつからずにすみました。さて、たらふくたべたいだけたべて、おなかがくちくなると、おおかみはおもてへにげ出して、木のかげになって、青あおとしているしばの上に、ながながとねそべって、ぐうぐういびきをかきだしました。

 

 

 

 それから間もなく、おかあさんやぎは、森からかえって来ました。ところで、まあ、おかあさんやぎは、そのときなにを見たでしょう。おもての戸は、いっぱいにあけひろげてありました。テーブルも、いすも、腰かけも、ほうりだされていました。洗面せんめんだらいは、こなごなにこわれていました。夜着よぎもまくらも、寝台しんだいからころげおちていました。
 おかあさんやぎは、こどもたちをさがしましたが、ひとりもみつかりません。ひとりひとり、名前をよんでも、たれも返事へんじをするものがありません。おしまいに、いちばん下の子の名前まで来て、はじめて、ほそい声で、
「かあさん、あたい、時計のお箱にかくれているよ。」というのが、きこえました。
 おかあさんやぎは、この子をひっぱりだしてやりました。そこで、この子の口から、はじめておおかみが来て、ほかのこどもたちみんなたべてしまったことが、わかりました。そのとき、おかあさんやぎは、かわいそうな子やぎたちのことを、どんなに泣いてかなしんだか、みなさん、さっしてみてください。
 やっとのことで、おかあさんやぎは、泣くことをやめて、末すえっ子やぎといっしょに、そとへ出ました。原っぱまでくると、おおかみは、やはり木のかげにながながとねそべって、それこそ木の枝も葉も、ぶるぶるふるい動くほどの高いびきを立てていました。
 ところで、おかあさんやぎが、おおかみのようすを遠くからよく見ますと、そのふくれかえったおなかの中で、なにかもそもそ動いているのがわかりました。
「まあ、ありがたい、おおかみのやつ、うちのこどもたちを、お夕飯ゆうはんにして、うのみにのみこんだままだから、みんなきっとまだ生きているのだよ。」
 こうおもって、おかあさんやぎは、さっそく、うちへかけこんで行って、はさみと針と糸をとって来ました。それから、おかあさんやぎは、このばけもののどてっ腹を、ちょきんとはさみで、ひとはさみはさみました。するともうそこに、一ぴきのこどもやぎが、ぴょこんとあたまを出しました。おかあさんはよろこんで、またじょきじょきはさんで行きますと、ひとり出で、ふたり出して、とうとう六ぴきのこどもやぎのこらずが、とびだしました。みんなぶじで、たれひとり、けがひとつしたものもありません。なにしろ、この大ばけものは、むやみとがつがつしていて、ただもう、ぐっく、ぐっく、そのまま、のどのおくへほうりこんでしまっていたからです。
 まあうれしいこと。こどもたちは、おかあさんやぎにしっかりだきつきました。それから、およめさんをもらう式の日の、仕立屋のように、ぴょんぴょんはねまわりました。
 でも、おかあさんやぎは、こどもたちをとめて、
「さあ、そこらで、みんな行って、ごろた石をひろっておいで、この罰ばちあたりなけだものが寝ねているうちに、おなかにつめてやるのだから。」といいました。
 そこで、こどもたちは、われがちにかけだして行って、えんやら、えんやら、ごろた石をあつめて、ひきずって来ました。そうして、それを、おおかみのおなかに、つまるだけつめこみました。すると、おかあさんやぎが、あとから、ちょっちょっと、手ばしこく、もとのようにぬいつけてしまいました。それがいかにも早かったので、おおかみがまるで気がつかないし、ごそりともしないまにすんでしまいました。
 おおかみは、やっとのこと、寝ねたいだけ寝て、立ちあがりました。なにしろ、胃袋いぶくろのなかは石がいっぱいで、のどがからからにかわいてたまらないので、ふき井戸のところへ行って、水をのもうとしました。ところが、からだを動かしかけますと、おなかの中で、ごろた石がぶつかりあって、がらがら、ごろごろ、いいました。

がらがら、ごろごろ、なにがなる
そりゃどこでなる、腹はらでなる。
六ぴきこやぎのなくこえか、
こりゃ、そうじゃない、ごろた石、

 おおかみは、こううたいました。
 さて、やっとこすっとこ、ふき井戸の所まで来て、水の上にかがもうとすると、おなかの石のおもみに引かれて、おおかみは、のめりました。そうして、いやおうなしに、泣き泣きおおかみは、水の中におちこみました。
 遠くで見ていた七ひきのこどもやぎは、みんなかけよって来て、
「おおかみ死んだよ。おおかみ死んだよ。」とさけびながら、おかあさんやぎと手をつなぎながら、おおよろこびで、井戸のまわりをおどりまわりました。

 

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作成日:2016年03月26日
更新日:2018年01月27日
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